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東京高等裁判所 平成11年(行ケ)181号 判決 2000年6月13日

原告

山一電機株式会社

代表者代表取締役

【A】

訴訟代理人弁護士

升永英俊

池田知美

大岩直子

同弁理士

【B】

被告

株式会社エンプラス

代表者代表取締役

【C】

訴訟代理人弁理士

【D】

弁護士永島孝明

山本光太郎

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  原告

特許庁が平成10年審判第35015号事件について平成11年4月16日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

被告は、発明の名称を「IC検査用ソケット」とする特許第1869849号の特許発明(昭和60年10月21日に出願され(特願昭60-235054号)、平成元年10月13日付け手続補正(以下「第1補正」という。)、平成2年9月29日付け手続補正を経て、平成3年4月2日に出願公告され、その公告後に平成4年2月14日付け手続補正(以下「公告後補正」という。)がされ、平成6年9月6日に設定登録されたもの、以下「本件発明」という。)の特許権者である。

原告は、平成10年1月12日に本件発明に係る特許の無効の審判を請求した。特許庁は、同請求を平成10年審判第35015号事件として審理した結果、平成11年4月16日「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本を同年5月19日原告に送達した。

2  本件発明の特許請求の範囲(別紙図面参照)

(1)  出願公告時の特許請求の範囲1の項(以下、この発明を「公告時発明」という。)

ICパッケージを載置するためのソケット本体1と、該ソケット本体1内に配置されていて上記ICパッケージからの突出したリード端子を挟持してICパッケージをソケット本体1に係止せしめる一対の挟持片2c、2dを有するコンタクトピン2と、上下動するように上記ソケット本体1に装着されていて下方向へ押動された時に上記コンタクトピン2の上記一対の挟持片2d、2cのうちの一方の挟持片2dの外方に突出して設けられた上側斜面を有する受爪2d″の該上側斜面と当接して該一方の挟持片2dを撓ませ上記リード端子の挟持を解除する押動片3a″を備えた解除体3とからなることを特徴とするIC検査用ソケット

(2)  公告後補正後の特許請求の範囲1の項(以下、この発明を「補正後発明」という。)ソケット本体1の開口部にICパッケージを挿入することにより、該パッケージの本体側方から突出するリード端子と接触するコンタクトピン2が列設されて成るIC検査用ソケットにおいて、前記コンタクトピン2の各々には、ソケット本体1に固定した基部2aから弾性変形可能に上方に立ち上がる一対の内側挟持片2c及び外側挟持片2dが形成され、該外側挟持片2dには、その先端部で上記リード端子に接触し得る接触挟持部2d′と、中間部から分岐して外側に突出していて上側に傾斜面を有する受爪2d″とが形成され、内側挟持片2cにはその先端部に外側挟持片2dの接触挟持部2d′と対向してリード端子を挟持接触し得る接触部2c′が形成されており、更にソケット本体に上下動可能に配設され且つ下方への押動時に受爪2d″と係合して前記傾斜面を押動して外側挟持片2dを外方に弾性変形させ得る押動片3a″を有する解除体3が具備されていることを特徴とするIC検査用ソケット

3  審決の理由

別紙審決書の理由の写しのとおりである。要するに、審決は、(1)第1補正が明細書の要旨の変更であるから、本件出願は第1補正日に出願したものとみなされるとし、これを前提に、本件発明は特開昭62-93964号公報記載の発明と同一である(無効理由1)といい、(2)公告後補正が特許法64条1項(平成5年法律第26号による改正前のもの、以下同じ。)に違反して特許請求の範囲を拡張したものであるから、特許法42条(平成5年法律第26号による改正前のもの、以下同じ。)により公告時の特許請求の範囲について特許されたものとみなされるとし、これを前提に、本件発明は特開昭56-45581号公報(以下「引用例」という。)記載の発明と同一である(無効理由2)といい、(3)本件発明が補正後発明であることを前提として、その特許は、特許法36条4項、29条2項に違反してされたものである(無効理由3)という原告の主張に対し、公告後補正は特許請求の範囲を拡張するものであるから本件発明は公告時発明であるとしたうえで、(1)第1補正は明細書の要旨を変更するものではない、(2)公告時発明は、引用例記載の発明と同一であるとすることはできない、(3)本件発明は公告時発明であるから、補正後発明についての判断は行わないとした。

第3原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由Ⅰは認める。同Ⅱは、5頁末行ないし6頁10行を争い、その余は認める。同Ⅲ1は争う。同Ⅲ2(1)は認める。同Ⅲ2(2)は、「②本件発明と甲第1発明の対比及び判断」の29頁9行ないし17行及び31頁2行ないし33頁下から2行を争い、その余は認める。同Ⅲ3は争う。同Ⅳは争う。

審決は、無効事由3についての判断を遺脱し(取消事由1)、無効理由1についての判断の対象を誤り(取消事由2)、無効事由2に関し、相違点ロについての判断を誤ったものであって(取消事由3)、その誤りが結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、違法として取り消されるべきである。

1  取消事由1(無効事由3についての判断遺脱)について

審決は、無効理由2の判断で説示したように「本件発明が公告時発明のとおり」とみなされるから、補正後発明についての主張である無効理由3は判断する前提を欠く、として、これについての判断を行っていない。

しかし、無効理由1、2及び3は、本件発明の無効を理由付ける独立した別個の請求原因であるから、無効の請求が成り立たないという審決をするためには、請求人である原告が無効理由として主張したすべての請求原因について判断し、すべての主張を排斥しなければならない。

そして、「公告時発明とみなされる」という判断は、審決理由中の判断にすぎず対世的効力を有しないのであり、本件審判手続以外では、本件特許は、依然として補正後発明として存続し、登録上も補正後発明のままである。請求人(原告)はこの設定登録されている補正後発明の無効を求めているのであるから、仮に当該審判手続の中で特許法64条1項違反が認定される場合であっても、その認定とは別に、補正後発明について主張された無効理由のすべてについて判断する必要がある。

また、無効理由2についての判断の中で本件発明が公告時発明とみなされるという認定をしても、それは審決理由中の判断にすぎず、対世的効力を有しない。

したがって、無効理由2とは別の請求原因である無効理由3において、原告が主張していない事実である、本件発明が公告時発明とみなされるという事実を認定することは、職権探知主義の限界を超えるものである。

したがって、無効理由3の判断を行わなかった審決には、判断遺脱の違法がある。

2  取消事由2(無効理由1についての判断の対象の誤り)

(1)  要旨変更の判断の対象は、公告時発明ではなく、設定登録されている補正後発明である。

審決は、無効理由2の判断の中で、本件発明は特許法42条により公告時発明のとおりとみなされるとしたことを理由として、無効理由1についても、第1補正が要旨変更に当たるか否かの判断の対象となるのは公告時発明であると判断した。

しかし、無効理由2についての判断の中で本件発明が公告時発明とみなされるという認定をしても、それは審決理由中の判断にすぎず、対世的効力を有しない。したがって、無効理由2とは別の請求原因である無効理由1において、原告が主張していない事実である、本件発明が公告時発明とみなされるという事実を認定することは、職権探知主義の限界を超えるものである。

また、本件の審決が確定すると、今後は、無効理由1と同一の事実及び同一の証拠に基づいて再び無効審判を請求することが一事不再理効により不可能となる。したがって、本件審判手続以外では、依然として補正後発明のままで特許が登録され存続するにもかかわらず、補正後発明についての要旨変更の主張は一度も審理されず、かつ将来的にも永久に審理を拒否される結果となるが、これは審判を受ける権利自体を当初から否定するに等しい。

そうである以上、要旨変更に当たるか否かの判断の対象となる本件発明は、補正後発明でなければならない。

(2)  本件発明を補正後発明とすると、第1補正による第5図及びその説明の追加は、要旨変更に当たる。

審決が要旨変更を否定した理由は、「挟持片2dが撓む具体的な態様とリード端子の挟持を解除することの関係」が公告時発明の特許請求の範囲に記載された技術的事項ではない、という点にある。

しかし、補正後発明は、その特許請求の範囲に「弾性変形可能に上方に立ち上がる」及び「下方への押動時に受爪2d"と係合して前記傾斜面を押動して外側挟持片2dを外方に弾性変形させ得る押動片3a"」と記載されていることから、「挟持片2dが撓む具体的な態様とリード端子の挟持を解除することの関係」が含まれている。

本件発明に係る特許出願の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下、これらをまとめて「当初明細書」という。)の第3図に記載されたばね部を持たない棒状の挟持片2dは、弾性変形するとき基部2aとの結合部が変形し、その結合部に応力が集中するという欠点を有している。一方、第1補正によって追加された第5図の実施例では、外側挟持片2dが弾性変形するときばね部2d”が弾性変形することにより、外側挟持片2dと基部2aとの結合部に応力が集中するのを防ぐことができ、これによりコンタクトピン2の耐久性の向上を図ることができるという新たな作用効果を奏するものである。

以上のとおり、第1補正は、当初明細書に開示されていない新たな技術的事項を付加するものであって、明細書の要旨の変更に該当するのである。

3  取消事由3(無効事由2に関する、相違点ロについての判断の誤り)審決は、引用例記載の発明について、「リード端子の挟持・係止の前の挿入と係止・挟持の解除の後の抜去は、双方の挟持片とリード端子との間に接触力を伴わないようにして行うものであって、双方の挟持片を撓ませる構成が必須のものである。」(31頁16行ないし末行)と認定判断したが、誤りである。

リード端子の挟持・係止の前の挿入と係止・挟持の解除の後の抜去を行う際に、リード端子が一方の挟持片に多少接触しようがしまいが、リード端子には支障は生じない。なぜなら、挟持片での挟持による挟持力が接触力よりも大きいことは常識であって、通常、リード端子はこの挟持力によって支障が生じないように設計されるからである。このことは技術常識であり、この技術常識を参酌すると、引用例記載の発明は、接触力を伴わないようにする「双方の挟持片を撓ませる」構成のみに限定されるものではない。

また、本件発明は、挟持片の解除機構に関して、接触力の存在の有無については何ら要求していない。本件発明に何ら要求されていない上記要件を用いて、引用例記載の発明の構成を「双方の挟持片を撓ませる」構成に限定して認定することもまた誤りである。

そして、リード端子の挟持を解除する構成として、「双方の挟持片を撓ませる」か、「一方の挟持片を撓ませる」かは、ともに二者択一的に行われている慣用手段であり、両者は実質的に同一の構成である。

したがって、引用例には、「一方の挟持片を撓ませる」構成の発明も記載されているのである。

第4被告の反論の要点

1  取消事由1(無効事由3についての判断遺脱)について

(1)  審決は、本件発明が公告時発明のとおりであることを認定したうえ、これを根拠に、本件発明が補正後発明であることを前提とする原告の無効理由3による主張が失当であることを判断している。したがって、審決に判断遺脱はない。

(2)  無効審判手続においては、出願された特許を特定するための特許法40条(平成5年法律第26号による改正前のもの、以下同じ。)、42条の適用の問題は、特許発明の有効・無効を判断する場合の先決問題である。したがって、この点の審理は、本件発明について無効が確定しない限り、無効審判が何回請求されても、各審判請求の審理において先決問題として必要がある限り必ず審理され、手続補正の有効性の認定に応じて特許法40条、42条の適用がその都度判断されることとなる。

原告は、審判において、各手続補正の有効・無効に応じて無効審判の無効理由を1から3まで順位的に定立して主張しており、手続補正が特許法64条1項違反であるとして公告時発明について特許されたという場合の主張も、無効理由2に含まれていた。したがって、審決が、出願公告後の補正の効力を否定したうえで、無効理由1ないし3についての判断において、これを前提にして審理を進めたことは、原告が最初から予期できたことであって、これに反する原告の主張は認められない。

原告は、審決の上記判断に対世的効力がないことを主張するが、対世的効力がないからといって同一の審理、同一の審判請求の趣旨において無効理由ごとに異なる発明があることを認めることは理論的に成り立ち得ないものである。

2  取消事由2(無効理由1についての判断の対象の誤り)について

(1)  取消事由2(1)に係る原告の主張は、上記1に述べたのと同じ理由により成り立ち得ないものである。

(2)  補正後発明においても、特許請求の範囲に記載された事項は、従来のガルウィング型ICパッケージ用のIC検査用ソケットにおいてはコンタクトピンとICパッケージのリード端子との接触箇所が一箇所であったものを、一対の挟持片2c、2dであって特に挟持片2dをリード端子の出入軌跡の外に退避するように撓ませることができるようにしたコンタクトピンを用いることにより双方の接触箇所を二箇所とした構成である。したがって、審決が認定したとおり、第1補正によって追加された第5図は、単に「解除体の押圧操作時にばね部が弾性変形するので、挟持片と基部との結合部に応力が集中することを防ぐのでコンタクトピンの耐久性を向上させるもの」であるから、補正後発明との対比においても、特許請求の範囲に記載された事項と第5図の挿入との間には直接的関連性はない。

したがって、補正後発明と対比しても、第1補正は要旨の変更には当たらない。

3  取消事由3(無効事由2に関する、相違点ロについての判断の誤り)について本件発明は、内外の2つの挟持片のうち、外側の挟持片を外側に撓ませるものである。ところが、引用例記載の発明では、「一方の挟持片を撓ませる」点は開示がなく、したがって、2つの挟持片のうち、いずれを撓ませることになるかについての示唆もない。しかも、本件発明では、リード端子の出入軌跡の外に挟持片が退避するように撓むものであるが、引用例記載の発明にはそのような技術的思想はなく、両者の発明には根本的な差がある。

そして、この相違により、本件発明は、多数のICを1度に検査することができ、ICパッケージ着脱作業が容易であり、リード端子とコンタクトピンとの接触抵抗が小さく、狭いリードピッチのICの検査測定にも使用可能である等、引用例記載の発明にない格別の作用効果を奏するものである。

したがって、本件発明と引用例記載の発明は同一ではない。

第5当裁判所の判断

1  取消事由1(無効事由3についての判断遺脱)について

(1)  原告は、審決は、無効理由3について判断遺脱の違法があると主張する。

しかし、無効理由3についての審決の説示は、特許された発明が公告時発明であることを認定し、無効理由3は、特許された発明が補正後発明であることを前提とした主張であるから、その前提において失当であって成り立たないという判断を示したものと理解される。以上のように、審決は無効理由3について判断を示しているのであるから、審決には判断遺脱の違法はない。

(2)  原告は、原告が補正後発明についての無効を求めているから、補正後発明が無効であるか否かを判断しなければならないと主張する。

しかし、特許の無効の審判は、特許された発明についての無効の審判であるから、特許されていない発明については、無効の審判を求めることも、これを判断することもできない。そうである以上、いかなる発明が特許されているかということは、審判において判断しなければならない問題である。そして、審決において、補正後発明については特許されていないと判断した以上、その補正後発明について、特許が無効であるか否かなどということを検討しなかったことは当然である。これを判断遺脱ということはできない。

(3)  原告は、無効理由2についての判断で、本件発明が公告時発明とみなされるという認定をしても、それは審決理由中の判断にすぎず、対世的効力を有しないから、無効理由2とは別の請求原因である無効理由3において、原告が主張していない事実である本件発明が公告時発明とみなされるという事実を認定することは、職権探知主義の限界を超えるものであると主張する。

しかし、特許の無効の審判において、特許が無効であると判断するためには、何が特許された発明であるかを認定しなければならないことは当然であり、このことは、その認定に対世的効力が認められないことによって変わるものではない。そして、特許庁がこれを認定するに当たって、請求人である原告の主張に拘束されなければならない理由はない。

原告は、その主張の根拠として、本件発明について、特許原簿では補正後発明として登録されたままであることを挙げる。

しかし、特許された発明がいかなるものであるかは、特許原簿に記載されたものとして確定しているわけではないから、特許原簿に登録された特許請求の範囲が補正後発明のそれであるとしても、そのことによって特許された発明が補正後発明であることに確定してしまうというものでもなく、本件発明に係る特許について判断される場合には、その都度、特許された発明が何であるかが判断されるのであって、その際、特許された発明が公告時発明であるという認定ができなくなるというものでもない。そうである以上、特許原簿の記載を根拠とする原告の主張は、採用することができない。

2  取消事由2(無効理由1についての判断の対象の誤り)について原告は、審決が、第1補正が要旨変更に当たるか否かの判断をするに当たり、本件発明を公告時発明であると認定したことについて、職権探知主義の限界を超えるものであると主張する。しかし、上記主張が採用できないことは、前記1において判示したところと同じである。

また、原告は、審決が確定すると、本件審判手続以外では本件特許が依然として補正後発明のままで登録され存続するにもかかわらず、無効理由1と同一の事実及び同一の証拠に基いて再び無効審判を請求することが一事不再理効により不可能となるから、これは審判を受ける権利自体を当初から否定するに等しいと主張する。

しかし、前述のとおり、特許無効の審判請求ができるのは、特許された発明に対してであって、特許原簿に記載された発明に対してではない。そして、本件発明が無効理由1によって無効であるか否かについては、既に審決において判断されているのであるから、同一の事実及び理由により再び無効審判を請求することができないとしても、審判を受ける権利を否定していることにはならない。

したがって、原告の主張は、採用することができない。

なお、原告は、公告後補正が実質上特許請求の範囲を拡張するものではないとの主張をしていないから、公告後補正が実質上特許請求の範囲を拡張するものであるとの審決の認定判断を誤りであるとして、これを審決取消事由とするものとは解されないから、この点の判断は行わない。

3  取消事由3(無効事由2に関する、相違点ロについての判断の誤り)について

原告は、引用例記載の発明は、接触力を伴わないようにする「双方の挟持片を撓ませる」構成のみに限定されるものではないと主張する。しかし、甲第1号証によれば、引用例には、「挿入するときに、・・・この状態では、駆動板3の底面に設けられたテーパー状突起部8がばね状端子6をこじ開けるため、ばね状端子6とリード2とは接触しておらず接触力ゼロである。・・・抜去は、・・・テーパー状突起部8がばね状端子6をこじ開ける。このため、ばね状端子6とリード2との接触力はゼロとなり、簡単にLSIパッケージ1を抜去することができる。」(2頁右上欄16行ないし左下欄15行)との記載があることが認められ、上記記載によれば、引用例記載の発明においては、リード端子の挿入、抜去の際に接触力を伴わないようにするものと認められるから、引用例に接触力を伴う構成が記載されているものとは認められない。そうである以上、引用例記載の発明は、双方の挟持片とリード端子との間に接触力を伴わないようにする「双方の挟持片を撓ませる」構成が必須のものというべきである。

また、原告は、リード端子の挟持を解除する構成として、「双方の挟持片を撓ませる」か、「一方の挟持片を撓ませる」かは、ともに二者択一的に行われている慣用手段であると主張する。しかし、本件全証拠によっても、本件発明及び引用例記載の発明の技術分野において、リード端子の挟持を解除する構成として、「双方の挟持片を撓ませる」構成や「一方の挟持片を撓ませる」構成が慣用手段であると認めることはできない。

したがって、審決の相違点ロについての判断には誤りはないというべきである。

4  以上のとおりであるから、原告主張の取消事由は、いずれも理由がなく、その他審決には、これを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

第6よって、本訴請求は、理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山下和明 裁判官 山田知司 裁判官 阿部正幸)

<以下省略>

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